東京地方裁判所 昭和23年(ワ)4543号・昭23年(ワ)4546号 判決
原告 村山桂一 外一名
被告 共栄精木株式会社
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告は原告桂一に対して金八千円、原告太一に対して金六千円を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、原告桂一は昭和二十一年四月三十日被告会社(もと横浜木材工業株式会社と称したが昭和二十三年七月三十日現在の商号に変更した。)の取締役に就任し爾来常務取締役として勤務し、原告太一は昭和十九年八月十日右会社設立以来代表取締役で社長の職にあつたが、原告両名は昭和二十三年七月三十日退任し、同年九月二日その登記を経由したけれども、事実上は同年八月末迄勤務し事務の引継をしたのである。而して被告会社の定款には取締役の受ける報酬額を定めていなかつたが、昭和二十二年七月三十日の定時株主総会の決議で、原告等取締役全員及び監査役即ち役員の報酬について、会社に利益が出るようになれば相当額の報酬を支払うこと、その額は役員会の決議に一任することと定めた。被告会社の決算期は年一回の五月末でその頃決算はしていなかつたが、同年十一月頃から業績好転し、月額一万八千円位の利益が挙がるようになつた。当時被告会社の役員は取締役中谷徳蔵、緒方清、原告両名及び監査役森三樹二、吉田安で同年十一月頃迄無報酬であつたので、同年十二月三十日その役員会で、中谷、緒方、森、原告両名出席の上原告桂一の報酬は一箇月金四千円、原告太一のは金六千円と決議せられ毎月二十五日支払と定めた。(その報酬額が前記株主総会の決議の趣旨に従つて相当に定められたことは、その後同年七月末被告会社の重役交替の際役員の報酬を支払つた残額が三、四万円余つていた程度に利益を挙げていたのである。)然るに被告会社は原告桂一に対して昭和二十三年六、七月分の報酬八千円、原告太一に対して同年七月分の報酬六千円の支払をしないので、その支払を求めると述べ、なお被告会社の貸借対照表は原告等の退社の際後任重役に引継いだが、株主総会の決議録は同年八月末の引継前に紛失したと附陳し、被告主張の抗弁事実に対して、原告太一が被告より十七万円を受け取り、その内九万円が株式の譲渡代金であることは認めるが、残り八万円は同原告が居住していた社宅の移転料として受取つたもので、報酬を包含していない。もとより原告等の一切の債権を打ち切る旨の協定をしたことはないと述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中、被告会社設立の日時、商号変更の点、その役員の点、定時株主総会召集の日時、定款に取締役の報酬額の定がないこと並に原告等がその主張の通り被告会社の取締役を退任し、その登記がなされたことは認める。その余の事実は認めない。原告主張のような株主総会が招集せられその決議がなされたり、役員会が開催せられたことはない。仮に株主総会の決議がなされたとしても報酬金額を定めない決議は無効であり、少くとも役員全体に対する報酬総額を定めなければ決議の効力はないものと解すべきであるから原告主張のような役員会に一任するというような決議は無効である。仮りに被告会社に報酬支払義務ありとするも、被告は昭和二十三年八月二十三日原告太一に対して十七万円を支払つた。その内九万円は同原告所有の株式譲受代金であるが、残金八万円は同原告の住居移転料と被告の原告等に対する報酬支払債務その他一切の債務を一括して八万円と定め、その支払によつて原告等の債権は一切打ち切ることの協定が成立したのであるから原告等の請求は失当であると述べた。<立証省略>
三、理 由
被告会社が昭和十九年八月十日設立せられ、原告主張の通り商号を変更したこと、その取締役監査役の氏名が原告主張の通りであること、原告等がその主張の通り被告会社の取締役に就任し、及びこれを退任し、その登記がなされたこと並びに被告会社の定款には取締役の報酬額の定がないことは当事者間に争ない。而して取締役が受くべき報酬について定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議でこれを定むべきことは商法第二百六十九条の明定するところ、原告は昭和二十二年七月三十日の定時株主総会で、被告会社の業績好転を見込み、従来無報酬の原告等取締役に対して、会社に利益が出るようになれば相当額の報酬を支払うべく、その額は会社の役員会の決議に一任する旨の決議をしたと主張するけれども、証人中谷徳蔵、原告本人村山太一の供述するところは、被告会社の株主総会で取締役に対する報酬支払については役員会に一任する旨の決議がなされた旨供述するに止まり、その決議録が原告等重役の交替前に紛失したことは原告の述べるところであつて、株主総会の決議がなされた点について他に何等拠るべき資料のない本件では、何時頃どのような株主総会が招集せられて如何なる内容の決議がなされたか甚だ曖昧であるから、直に右供述を採用して原告主張の株主総会の決議がなされたものと認むべき心証を惹起するに足りない。前記供述によつて認め得られるところは、被告会社の株主総会で取締役に対する報酬支払については役員会に一任する旨の決議がなされたというのであるけれども、会社役員全体(取締役監査役)に対する報酬額の決定並にその支払を無条件で役員会に一任する旨の株主総会の決議は前記商法の規定に違反して無効のものと考える。蓋し取締役は会社の実権を掌握するものであつて自己に対する報酬を自己の一存で決定させるときは往々にして会社の利害を度外視し、自己の利益のみを図り、専権に走るの弊なきを保し難いので、前記商法の規定はこの弊害を防止するために設けられたものと解するのが相当である。即ち株主総会の決議で取締役等会社役員に対する報酬額並にその支払の決定を役員会の決議に委任するに当つては、役員等に対する報酬総額に制限を加えるとか或は前記のような専断に陥るおそれがないような方法で役員の内一、二の限られた者に対する報酬額の決定を相当額の範囲内で役員会の決議に委任するというように制限附の委任は法の禁止するところではないけれども、前記のような役員会に無条件一任の決議は商法の認めないものと解すべきである。なお会社役員に対する報酬額は会社の経営状態に照し相当額に制限する旨の決議がなされたとの原告主張事実はこれを認むべき証拠がない。
以上の次第であるから、株主総会の決議による適法な授権がなされたことを前提とし、これに基く役員会の決議の存在を主張する原告等の請求は爾余の争点の判断をする迄もなく失当であつて棄却を免れない。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 西川美数)